「いや、愛子が居るかどうかわかんないし」

「居るでしょう。愛ちゃんなら今頃ゴロゴロしながらテレビ見てるわよ」

それはアナタだし、流石に愛子に失礼だぞ…。

「とにかく、そこまで伸びてるとだらしないから、切りなさい」

トドのように横たわったままの母と、髪が伸びた僕とでは、どちらがだらしないだろうか。

「早く切ってきなさい!」

「ハイハイ…」

毎日、愛子の部屋に行っておきながら、何故、店のほうは気が進まないか。

店の前でため息をついてから、

「こんにちは」

扉を開くと、

「おっ、ゆうちゃん!ラッキーだったなぁ。今日はどしゃ降りのせいかなぁ?他にお客さん居ないから、俺を独占できるぞ」

何故、おじさんを独占できるとラッキーなのだろう。

僕が店のほうは気が進まない理由は、このハイテンションおじさんにある。

決して悪い人ではないどころか、善人なのだが、ついていけない…。

とはいえ、無邪気さが愛子に遺伝していることを思うと、このキャラを否定することもできず、悩ましいところだ。

「おじさん、愛ちゃんは?」

「ん?気になる?気になる?」

「いや、いいよ、もう…」

「愛ちゃんは駄菓子屋だよ!」

駄菓子屋って…愛子は小学生か。

「ただいまー!あっ、ゆうちゃん!来てたんだ?」

噂をすれば…しかも、本当に駄菓子屋に行っていたのか。

「はい、これあげる」

僕にアイスキャンディをくれる愛子。

「サンキュ」

「愛ちゃん、それ、パパのアイス…」

「パパは、口じゃなくてハサミを動かしてよね。ゆうちゃんはお客さんなんだから」

ごもっともだ。