ただ、まっすぐ君を想う。


「んー…何時…?…雛…?」



「うん、おじゃまします」



「んー…」



凰ちゃんが

ベッドで伸びをした



よくこのベッドの上で遊んだな



汗だくになって飛び跳ねて

シーツがグチャグチャになって

凰ちゃんに怒られた



「凰ちゃん、寝てたの?
ご飯は?」



凰ちゃんの隣に座った

ベッドが揺れた

さすがにもぉ飛び跳ねないよ



「うん、寝てた
ご飯?…もぉそんな時間?昼?」



「もぉ夜だよ、凰ちゃん」



「え…もぉ夜?
支度しなきゃ…」



「なんか用事あった?
どこか行くの?」



「んー、ちょっと友達とね…
久々だから…」



「そっか…そーだね…」



せっかく早く帰ってきたのにな…

凰ちゃんだって友達に会いたいよね

私より友達大切だよね



「雛、なんかいい匂いする」



「ん?そお?…かな…」



凰ちゃんが私の首元に鼻を近付けた



クリスマスにお姉ちゃんからもらった香水

ちょっとだけつけた



今日は

凰ちゃんに会うつもりだったから



クンクン…



凰ちゃんが

近い



ドキドキして

息が

止まる



凰ちゃんの鼻が

私を

ゆっくりなぞる



緊張して動けなくなる



凰ちゃん



限界



「あ、あのさ…今日ね…」



手をパタパタしたら

凰ちゃんに

手を握られた



あのさ…今日ね…



続きの言葉は

特に用意してなくて



何か話さなきゃ…

どこか動かさなきゃ…

って



パタパタ動かした手を

凰ちゃんに掴まれた



「ん?ん?…ん?」



凰ちゃんが

私の手に顔を近付けた



「な、に…?凰ちゃん」



「雛、ポテト食べた?」



「…え?」



「ポテトの匂いする」



「あ…あ、うん…食べたよ」



なんだ

いい匂いって



ポテトか



「雛、ポテト好きだもんな
オレのぶんも取って食べてたよな」



「うん…だっておいしいもん!
今日は凰ちゃんに会うために
半分残して帰って来たんだよ」



「へー…オレのために?
大好きなポテトを?
雛も成長したじゃん」



「うん、でしょ!」



凰ちゃん



成長したんじゃなくてね…



「じゃあ、今度おごるわ」



「うん、今度ね!」



「うん、よく一緒に食べたよね
雛の方がいつもいっぱい食べてた」



「そーかな?」



「うん
で、最後の1本を
すげー食べたそうに見てて…」



「ウソ?そんな見てないよ!」



「見てたよ
オレも食べたかったけど
雛かわいいな…って
いつも譲ってた」



うん

そーだった



雛、食べな…って

最後の1本は

いつも私が食べてた



また行きたいな

凰ちゃんとポテト



「凰ちゃん
今度って、いつ?」



「今度…いつかな…」



なんだ

一緒に行く気なんかなかったんだ

凰ちゃん



私は成長なんかしてない

まだチビで



ただ

凰ちゃんのことが

もっと



どんどん好きになってる



「凰ちゃん
私、忘れちゃうよ

凰ちゃんずっと帰って来ないから
忘れちゃう」



ホントは忘れられない

凰ちゃんのことも



凰ちゃんが好きなことも



凰ちゃんが

ポテトおごってくれるって



たぶん

一生忘れない



「大丈夫
オレ覚えてるから…」



凰ちゃんは大人だね

そーゆーの

社交辞令っていうんだよね



「凰ちゃん
忘れないうちに、帰って来てね

私のこと、忘れないでね…」



子供の私には

社交辞令は通じないよ



「あぁ、忘れないよ
ずっと、覚えてるよ」