きみの瞳に映る空が、永遠に輝きますように


 週末の昼過ぎに車を走らせること一時間。

 今日は父と隣県のキャンプ場に来ていた。

 先日はピクニックと言っていたからてっきり日帰りだと思っていたが、一泊二日だったし、まさかのグランピングに驚きを隠せなかった。

 流行りに疎い父が私のために調べてくれたのだと思うと、そんな父を微笑ましく思った。

 そう言う私も流行りに疎いために名前しか知らなかったのだけど。

 父が最後の思い出作りとして立てたであろう計画。

 私にはこの計画を潰さないようにしなければならないという使命があった。

 そして、精一杯楽しまなければならない。

 最後の最後まで父に迷惑をかけて思い出ひとつさえ残せないようでは娘失格だ。
 
 受付を済ませ、今日宿泊するキャビンまで向かいながらそんなことを考える。

 「着いたよ」

 そう言われて外を見ると、プレハブのような一面藍色の壁で大きな窓が複数あるだけの無骨な外装のキャビンがあった。

 見るからに高価で2人には勿体ないとさえ思う大きさだ。

 私は車を降りると、父に続いて室内に入った。

 目の前には4人掛けのソファや壁掛けテレビがある。

 窓からはバーベキューグリルが見え、豪華なウッドテラスも見えた。

 現実離れしたその場所に少し落ち着かない。

 だが、興奮して子供のようにはしゃぐ父の姿を見ていたら、自然と私まで楽しみの気持ちが勝る。

 そう思うと改めて、ここに母も含めて三人で来たかったな、と思った。

 今それを望んだところで不可能な話だけれど。

 「蒼来、L字型のキッチンもあるぞ」

 父は興奮気味にそう言う。

 「そうだね」

 私はそう言って笑って見せた。

 何より父の幸せに出会えたことが嬉しかった。

 きっと、この先この笑顔を見ることは無いだろうし、益々迷惑をかけるようになるだろう。

 そう思うと、この時間を噛みしめておきたい、との気持ちばかりが湧いてきた。

 「蒼来、何か飲むか?」

 「うん。私がするからお父さんは座っていて」

 私は置いてあったスティック飲料のミルクティーを作った。

 ミルクティーに触れると1か月も前のあの日を思い出してしまう。

 生きるために大きな決断をした日のことを。


 あれからもう1か月も経つのか。

 そんなことをしみじみと思いながらも、時折二か月後のことを考えてしまう。

 もう二か月もないのに、残された時間を有効活用できるだろうか。

 隙があれば決まってそればかりを考えてしまう私はいっその事思考回路が遮断された方が幸せな気がする。

 現実的に不可能な話だけど。


 私がミルクティーを作りながら考え事をしている間、父はソファに座って、キッチンに立つ私を心配してじっと見ていた。

 それが気になって仕方がなかったが、あえて気付いていないふりをした。

 過保護なのか病気が心配なのか、おそらく両者だと思うが、父の優しさゆえの行動に嫌な気はしなかった。

 「はい、ちょうどいいかは分からないけど」

 少し照れ臭くなってそう言った後、向かい合っている状態から逃げるように隣に座った。

 「ありがとう」

 「いえいえ」

 「蒼来も大人になったんだな」

 「このくらい昔から出来ていたよ」

 「そっか、そうだよな」

 突然父がそう言うものだから私もどう返していいのか分からず、平凡な返ししか出来なかった。

 改めて考えてみれば、父が言いたいことはなんとなくわかるような気がする。

 私はこれから出来ないことが日に日に増えていくことになる。

 ミルクティーを作ることも、自分で飲むことさえも。

 そんなことを考えたくはなかったが、いずれ訪れる話だから受け入れなければならないと思うと複雑な気持ちになってふと考えてしまった。

 「ちょっと休んでくるね」

 夕食はウッドテラスでバーベキューらしく、それに備えて一度身体を休めておきたくて、ひとり寝室に向かった。

 シングルベッドがふたつ、隙間なく並んでいた。

 私は奥の方に横になり、布団をかけると静かに目を瞑った。

 全くと言っていいほどに眠気はなかったが、先に睡眠をとることで夜に症状が出ることを避ける狙いだった。

 こういう時に限って寝られないんだよね、とそっと呟く。

 枕に顔を埋めて大きく息を吐く。

 今日と明日くらいは無理に笑ってでも暗いことを考えないでいようと思っていたが、それは私には不可能だった。

 宣告通りにいった場合の残された日数を数えて時間を計算しては現実に向き合わされてきた。

 この計算と自分のお金の計算だけは無限に出来てしまう気さえするのだから不思議だ。

 こんな能力なんてあっても無駄だけど。

 この時点であと約820時間しか私には残されていなかった。

 とはいえ、このうちの半分を睡眠に費やしてしまうのだろうからあっという間に人生を終えるのだろう。

 どうすれば残された時間を、胸を張って生きられるかを考えた結果、行きついた先は今という時間を心の底から楽しむということだった。

 今の私にはそれが出来る自信はないけれど、必死になってみよう、と決めた。