きみの瞳に映る空が、永遠に輝きますように

 今日は検査と投薬治療を受けるために通院する予定が入っていた。

 まだ眠い目を擦り、通学路並みに通いなれたこの道を父の運転する車に乗り込んで病院に向かった。

 この時間が診察中以上に気まずく、いかに沈黙を軽く済ませるかを気にしてばかりいた。

 その点、病院にさえつけば後は流れに任せるだけ。

 勿論、現状を突きつけられたり余命宣告を受けたりすれば話は別なのだろうが。

 結局ある程度検査をしたところでまた後日検査結果を聞きに来るから、幸い今日は特別辛いことは無かった。

 数年同じ検査を繰り返していることもあってか検査の痛みにももう慣れた。

 いや、それよりもつらいものに出会ってしまったからだろうか。

 治験にももう慣れた。

 これまでの治療より想像以上に楽だったためか、本当に効き目があるのか、とまで思ったほどだ。

 そんなことを考えていたら、会計待ちの間に一足先に外の空気を吸いたくなり、席を立った。

 どの直後少し目眩がしたが、その目眩でさえ、生きている、と感じて思わず目が潤んだ。


 「透真くん?」


 数歩歩いたところで、少し先を行く後ろ姿に見覚えがあったため不安はあったが名前を呼んでみる。

 「ん、蒼来?」

 間違いなくそれは透真くんで、彼は何も持たずにグレーのパーカーにジーンズを身に着けて歩いていた。

 「どうした?」

 透真くんはそう言うと私の方に歩み寄る。

 呼び止めた私が立ち止まるのはどうかと思い、私も慌てて向かおうとしたが一瞬目の前に靄が掛かり結局足を止めた。

 「そこの椅子にでも座る?」

 透真くんは待合の椅子を指してそう言った。

 目的の外の空気を吸うには至らなかったが、これはこれでいいだろう。

 私は小さく頷き、彼の肩を借りて足を動かした。

 日に日に弱っていく自分が惨めに思えて、今も着実に死へのカウントダウンが始まっているのだと思うと恐怖で何も考えられなくなる。

 今度の診察で余命宣告を受けても仕方がない、と思えるほどに、自分の症状の悪化を感じていた。

 「ごめん」

 「なんで蒼来が謝るんだよ」

 私が作り出した二人の間の薄暗い空気を透真くんの笑顔が場を和ませた。

 「よく会うよな」

 「そうだね。あのさ、透真くんはどうしてここに?」

 「今日も家族のお見舞いだよ」

 「ごめん、言いたくなかったよね」

 「大丈夫、もうすぐ退院できるらしいから」 

 「そっか、おめでとう」

 「ありがとう」

 それから、顔を見合わせて笑った。

 正式には、家族の病状の回復を祝われたこの状況に思わず微笑み、私はただ透真くんにつられただけなのだけど。

 でも、この短い時間が現実を忘れられる良い時間となった。私の僅かな日常であり青春だった。

 「蒼来、帰るぞ」

 そんな時、横から聞こえた父の声に振り返る。

 もう会計も終ええたらしい。

 「突然引き留めてごめんね」

 「ううん、お大事に」

 透真くんは手を貸して私が立つのを補助し、最後にそう言った。

 それからすぐに父の手を借りて歩き出す。

 結局彼とは何も話せないどころか返って気を遣わせてしまったと後悔した。