今、目の前にいる先輩は、お酒が飲めるようになっていて、左手の薬指に綺麗な指輪が収まっていた。しっかりとそこに存在していた。

 部活の仲間たちと笑い合う姿も、つまみを食べる姿も、全部先輩であって、先輩でないような気がした。


 帰り際、「もも」とあの懐かしい声色を聞いた。

 振り向くと、「今、幸せ?」と聞かれた。
 何も考える事なく頷いた。
 その瞬間、あぁ、わたしは今幸せなのかと実感した。

 この幸せはアユが一生懸命に作り出してくれたものだとわかったとき、涙がスーッと流れたのを頬で感じた。

 最近のわたしは泣いてばかりだ。誰にも気づかれないように俯くと、ポンと一回軽く叩いて、わしゃわしゃと撫でられた。

 この感じ、懐かしい。でも、これじゃない。そうか、これじゃない。


 ストンと腑に落ちる。

 「良かった。幸せになってね、もも」そう言って、別れた。


 わたしは最低だ、でも無性にアユに会いたくなった。