悲劇の王女は生まれ変わってハピエン主義の人気小説家になりました

 開始直前になって大慌てのサイン会となってしまったが、モニカはなんとか間に合ってくれた。持つべきものは有能な侍女である。
 しかし有能な侍女は戻るなり息を切らせて言った。

「セレナ様ぁ~、さすがに都合よく仮面を売っている店なんてありませんよぉ~」

「でしょうね」

 わかってはいた。だが私に任せろという体で走り去った割には情けない発言である。

「なので本日公演予定の劇団に駆け込み、衣装を借りさせていただきました!」

 誇らしそうに語るモニカが差し出したのは鮮やかなジャケット。すらりと伸びた白の眩しいズボン。そして極めつけは白い羽飾りのついた目立つ帽子。その上に置かれているのは目の部分だけを隠せる派手なマスクだ。

「これは?」

「とても急いでいます。至急お借りできる変装道具はありませんかと聞いたところ、こちらを貸していただけました」

「着るの? 私が?」

 この派手な服をとセレナは気圧されていた。
 確かにこれならセレナらしさはどこにもないが、むしろ何がしたいのかもわからない気がする。

「信頼を得るためリタ・グレイシアの名前を出したところ、先方はリタの大ファンだそうで、ご自身の衣装を身につけてくれることを大変光栄だと歓喜しておいでです」

「それもう着るしかなくない!?」

 最初から拒否権はなかった。モニカの眼差しは穏やかに、諦めて下さいと言っている。
 確かに好意を無下にはできない。変装グッズに困っているのも事実であると、セレナは覚悟を決めさせられた。
 
(そういえば焦って失念していたけれど、旦那様には妹さんがいらっしゃるのよね。もしかしたら妹さんのためとか? もしくはそっくりさん!)

 着替えながら考えを巡らせることができるのは落ち着いてきた証拠だ。仕上げにマスクを装着すればセレナの存在は消えた。