「遅くまでごめんなさいね」
「いえ、お母様こそお忙しいのにありがとうございます」
「私はいいのよ。でも貴女は明日サイン会でしょう。それに、新婚なんだから」
事実を言われてもセレナは今思い出したという心持ちである。
するとネヴィアがじりじりと距離を詰めてきた。まるで逃さないと言うようだ。
「仕事の話はここまで。本の話も良いけれど、私は貴女の話も聞きたいわ」
「私ですか?」
「人気小説家リタ・グレイシアが新婚だなんて知ったらきっとみんな驚くわね」
楽しそうに笑みを浮かべるネヴィアを前に、セレナは苦い思いで紅茶に手を伸ばす。
「まさか、契約結婚ものを書いていたら自分が契約結婚をすることになるとは思いませんでした」
「現実って、時には物語を超えてしまうのよね。死んだはずの娘が生まれ変わって目の前に現れることもあるのだから、きっとそういうこともあるのでしょうけれど」
「本当に……」
頷けば、自身の境遇は改めて物語のようである。
悲劇の王女セレスティーナとして死に、同じ時代の同じ国に伯爵令嬢として生まれ変わった。
前世の母と再会し、何故か作家と編集のような関係を築いている。
さらに言えば先日契約結婚をしたばかりの新婚だ。
しかしこと結婚に関しては物語のようにはいかないらしい。ネヴィアを心配させたくないセレナは慎重に言葉を選ぶ。
「私たちの結婚は物語のようなロマンスには発展しないと思いますよ? 旦那様との距離は、相変わらず遠いですし」
「そうなの?」
セレナの夫は寡黙ながらも美しいと評判の冷血公爵ラシェル・ロットグレイ。公爵でありながらルクレーヌの王太子の右腕とも評され、国からの信頼も厚い人物だ。
しかしその美しい顔に感情が乗ることはない。真面目で堅物、容赦のない冷酷さを持ち合わせ、彼の怒りを買った貴族は社会的に消されたといわれている。冷血公爵とは、常に整った顔立を崩さず無情な判断を下すことからつけられた通り名だ。
伯爵令嬢であるセレナと公爵家当主のラシェル。それは互いの利益のために結んだ契約結婚であった。セレナは小説を書き続けるために。ラシェルは早急に結婚する必要があったという。
「いえ、お母様こそお忙しいのにありがとうございます」
「私はいいのよ。でも貴女は明日サイン会でしょう。それに、新婚なんだから」
事実を言われてもセレナは今思い出したという心持ちである。
するとネヴィアがじりじりと距離を詰めてきた。まるで逃さないと言うようだ。
「仕事の話はここまで。本の話も良いけれど、私は貴女の話も聞きたいわ」
「私ですか?」
「人気小説家リタ・グレイシアが新婚だなんて知ったらきっとみんな驚くわね」
楽しそうに笑みを浮かべるネヴィアを前に、セレナは苦い思いで紅茶に手を伸ばす。
「まさか、契約結婚ものを書いていたら自分が契約結婚をすることになるとは思いませんでした」
「現実って、時には物語を超えてしまうのよね。死んだはずの娘が生まれ変わって目の前に現れることもあるのだから、きっとそういうこともあるのでしょうけれど」
「本当に……」
頷けば、自身の境遇は改めて物語のようである。
悲劇の王女セレスティーナとして死に、同じ時代の同じ国に伯爵令嬢として生まれ変わった。
前世の母と再会し、何故か作家と編集のような関係を築いている。
さらに言えば先日契約結婚をしたばかりの新婚だ。
しかしこと結婚に関しては物語のようにはいかないらしい。ネヴィアを心配させたくないセレナは慎重に言葉を選ぶ。
「私たちの結婚は物語のようなロマンスには発展しないと思いますよ? 旦那様との距離は、相変わらず遠いですし」
「そうなの?」
セレナの夫は寡黙ながらも美しいと評判の冷血公爵ラシェル・ロットグレイ。公爵でありながらルクレーヌの王太子の右腕とも評され、国からの信頼も厚い人物だ。
しかしその美しい顔に感情が乗ることはない。真面目で堅物、容赦のない冷酷さを持ち合わせ、彼の怒りを買った貴族は社会的に消されたといわれている。冷血公爵とは、常に整った顔立を崩さず無情な判断を下すことからつけられた通り名だ。
伯爵令嬢であるセレナと公爵家当主のラシェル。それは互いの利益のために結んだ契約結婚であった。セレナは小説を書き続けるために。ラシェルは早急に結婚する必要があったという。


