「セレナ様、新刊の発売おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます」

「ありがとう、ハンナ。でも、貴女の素晴らしい挿絵があってこそよ」

「いえわたくしは、指示されたものを描いただけですから」

「だからって、いきなり侍女に絵をかけなんて無茶振りによく応えてくれたと思うわ」

「……王妃殿下とセレナ様のお役に立てたのなら光栄です」

 できる侍女ハンナは恐縮するが、いきなり描けと言われて描けるものではない。すべてはネヴィアの無茶振りから始まったのだ。
 セレナは娘の死を嘆くネヴィアを慰めるためセレスティーナをモデルにした小説を贈った。ネヴィアはその小説を気に入り、出版したいと言い出したのである。
 原稿はネヴィアの的確な指示にって改稿され、セレナの実家であるレスタータ家が支援する印刷所に持ち込まれた。
 無茶振りに巻き込まれたハンナは健気にも協力してくれたのだ。

「お二人はこれから次回作の打ち合わせですよね? 私もファンとして楽しみにしております。隣の部屋に控えておりますので、ご用の際はなんなりとお申し付け下さい」

 そう言ってハンナは下がり、二人きりにしてくれる。扉が閉まると長い打ち合わせの始まりだ。
 いつものことではあるが、昼に訪ねたというのに打ち合わせを終えたのは夜である。