城で来訪を告げたところ、速やかに通されたのは王妃の私室である。この面会を楽しみにしていたのは相手も同じだったのか、セレナが到着すると自ら部屋の扉を開け放って現れた。

「セレナ! 待っていたのよ」

 ルクレーヌの王妃であり、亡き王女セレスティーナの母であるネヴィアが嬉しそうに出迎えてくれる。

「お待たせしてしまい、申し訳ありません」

「いいのよ。今日は大切な日ですもの! さあ入って。モニカは一緒ではないのね? なら堅苦しいのはなしよ」

 二人きりであることを確認してからネヴィアは嬉しそうに言った。
 セレナは期待に応えようと、二人きりの時にしか口にしない呼び名を告げる。

「はい。お母様」

「ええ。貴女には叶う限りそう呼んでもらいたいわ」

 伯爵令嬢として生まれたセレナと王妃であるネヴィア。二人に血の繋がりはないが、心は深く繋がっている。そのためネヴィアはセレナから母と呼ばれることを望んでいた。

「それで? 書店の様子はどうだったのかしら」

 ネヴィアは待ちきれずに切り出した。好奇心に満ちた眼差しが早く聞かせて欲しいと子どものように強請る。

「どの店も開店から列が途切れない様子で、騒ぎがおきないよう騎士の方たちが配備されていました」

「それはそうよ。リタの新刊発売日ともなれば暴動がおきてもおかしくないって、わたくしからも陛下に進言しておいたの」

「ありがとうございます。おかげで目立った問題はなさそうでした。あちこちからリタの名前が聞こえて、反響が大きいようでほっとしています」

「私も何度も読み返しているのよ。契約結婚から真実の愛が始まるなんてロマンチック。今回も胸が熱くなるような恋物語だったわ!」

「ありがとうございます」

「ああいけない、興奮するあまりお茶の用意がまだだったわね」

 ベルを鳴らすと王妃の侍女ハンナがティーセットを運んでくれた。