悲劇の王女は生まれ変わってハピエン主義の人気小説家になりました

「ここにある本は好きに読んでくれて構わない。その代わり、一ついいだろうか」

「なんです!?」

 妙にどきりとしてしまうのは隠し事のせいだ。その美しい唇は一体どんな要求を紡ごうというのか。

「君との会話、とても有意義だった。またこうしてリタについて語りあえたら嬉しく思う」

「え?」

 冷酷な公爵から飛び出したとは思えないあまりにも普通なお願いに呆けてしまう。しかしそれ以上に続く言葉はない。

「もしかして、要求ってそれですか?」

「ああ」

 緊張した面持ちで乞われるが、そんなことでいいのかとセレナは拍子抜けしてしまった。セレナの頭の中ではリタであることをネタに揺すられる所まで妄想が進行していたのだ。

(なんだ……)

 ネヴィアには見ているものが違うと言ったけれど、案外似た者同士だったのかもしれない。

「私たち、同じ趣味を持っていたのですね」

「何?」

「では私たちは今日から趣味友達ですね」

「趣味友達……」

 不思議そうに繰り返すラシェルの姿に微笑ましさが込み上げる。

「はい。旦那様さえよろしければ、喜んで」

「ありがとう」

 不意打ちでくらう美丈夫の微笑に不覚にも胸が高鳴った。
 妙な約束を取り付けてしまったとも思うが、不意打ちの衝撃に絆されてしまったのだ。

「旦那様、そんな風に笑うんですね」

 ちゃんと表情筋ついてたんだと思ったことは内緒だ。

「おかしいか?」

「いいえ。とても素敵だと思います」

 つられてセレナも微笑んだ。
 もう妖精姫と呼ばれることはないけれど、それは確かにラシェルの心を魅了していた。

「友人として、これからよろしくお願いします」

 セレナは夫に手を差し出す。サイン会の時とは違い、自分からその手を握りにいった。
 すでに夫婦でありなが友達から始めようというのは不思議な関係だが、お互いを知ることもなかった自分たちにとっては丁度いいだろう。この人のことを知りたいという気持ちはセレナの内にしっかりと芽生えていた。
 そしてそれはラシェルにも言えることだ。