悲劇の王女は生まれ変わってハピエン主義の人気小説家になりました

「君にこれを」

 そうして手渡されたのは発売されたばかりの自著だった。

(お前の正体は知っているってこと!?)

 脅迫かと身構えるセレナにラシェルは言った。

「リタ・グレイシアの新刊だ」

(知ってますけど!)

「屋敷にこもっていては退屈だろう。君も読むといい」

「ありがとう、ございます……?」

 そう言ってラシェルは混乱するセレナを置き去りに仕事へ出かけていく。意図がわからず、セレナは一晩中本を睨む羽目になった。
 だがいつまでも恐怖に震えるつもりはない。帰宅したのなら真意を探ろうと構えていたセレナだが、訪ねてきたのはラシェルの方からだ。

「読んだか?」

「はい。何度も……」

「なんだと!?」

「いえ何度か!」

 低く問い質され、つい正直に答えてしまったセレナは言い直す。
 この本をではないが、何度も読んだのは事実だった。

(というか書きましたし)

「そうか。それで?」

「それで?」

「どう思った?」

「どう!?」

 やはりこれは尋問か。真意の読めない眼差しが続きを促してくる。

「それは……とても、素晴らしかったです」

 当たり障りのない回答をすれば、足りないとラシェルの眼差しが語っている。

(他に何を言えと!?)

 これでも作者である。

「ええと……契約結婚をした二人が、すれ違いながらも絆を深め、やがて心で繋がりお互いを必要とし、手を取り合う描写には深く感動致しました。やはり幸せな結末は心が温まるといいますか」

 言ってやった。恥ずかしいけれど言ってやった。セレナは羞恥で顔が赤くなるのを感じていた。
 しかしラシェルの様子もおかしい。

「そうか!」

「ひっ!?」

 叫びにも近い声に顔を上げると強く手を握られる。感情のままに握られた力は強かった。