「ごめん、結衣ちゃん。俺が目を離したせいで。」
いや、どう考えても私の自業自得だよね。
何も言わないでトイレ行ったのが悪いんだし。
だからそんな悲しい顔をしないで欲しい。
駿の落ち込んだ顔で私の心が砕けそうだ。
「駿のせいじゃないよ。これは駿から離れた私が悪いし。それに、もしもの時は急所を蹴ろうと思ってたし!」
私が組んでない方の手でグッと親指を立てると、駿はハハッと笑った。
「好きだよ、結衣。」
「ふふっ、なんで呼び捨てなの?」
「たまにはいいでしょ?結衣。」
「うん、いいね。」
世の中の姉は、弟にお姉ちゃんと呼ばれることが多いだろうけど、駿はお姉ちゃんとは呼ばない。
なんでかは知らないけど。
「そうだ、さっきのヤツ、遼には絶対見せないでね。」
「なんで?」
結構良い出来だと思ったから、私の演技レパートリーに加えて遼兄にも見せようと思ったのに。
「あれは俺だけが知ってたいの。…だめ?」
「だめじゃないです。」
くっ、私が駿の可愛さに勝てる日は来るのだろうか。
いや、ない。(反語)
結衣ちゃんって呼ばれるのは好きなんだよね。
だからどうこう言ったことはないんだけど。
次の日から駿は私の名前を呼び捨てにしてきたからついつい言ってしまったのだった。
「なんで?」
「いいねって言ってくれたでしょ?だからだよ!」
満面の笑みで言われてしまった。
いや、あれはたまにならいいねって言う意味だったんだけど……なんて駿には言えなかった。


