「さあさあ、次で最後にしましょう」

「え~!もっとひいてよ~」

園長先生が声をかけると、園児たちから一斉に不満の声がわき上がった。

「じゃあ、最後は先生と一緒に弾いてもいいかな?」

緩やかに声をかけた静の視線は春花をとらえていた。目があった春花は内心ドキリとする。

「春花、連弾で。トロイメライ」

「……え」

指名されたことに戸惑い動けないでいると、

「はるかせんせ~」

「ひいてひいて~」

と、園児たちが口々に騒ぎ出す。それでも動けないでいると、今度は園児が春花の手を引っ張って静の元へと連れていった。

静は春花をエスコートしてくれた園児たちに「ありがとう」とお礼を言うと、春花の肩を持って椅子に座らせる。

大人しくストンと座った春花だったが、

「……静」

「春花」

柔らかく名前が呼ばれ、その甘くて痺れるような声に心がザワザワと揺れ動いた。

「いくよ」

静のすうっという呼吸音に身がピリッと引きしまった。

静のリズムに合わせて自然と指が動く。あんなに違和感があった左手首も、全く気にならない。静が隣にいるという安心感は絶大なものだった。

(……楽しい!)

演奏しながら、いつしか春花は笑顔になっていた。