自室に戻りベッドへ突っ伏す。

両親が不仲でいつだって雰囲気が悪く居心地の悪い家。離婚するなら早くすればいいのにと、春花は密かにずっと思っていた。

だから心の準備はできていたはずだった。父とは会話のない生活がずっと続いている。別に嫌っているわけではないが、離婚したら母について行くのだろう。引っ越すのならピアノは持っていけないかもしれない。などと大方の予想はできていたのだ。

「はぁー」

春花のため息は誰に聞かれることもなく、虚しく抜けていく。いくら予想していたとはいえ、受験もコンテストも控えているこの時季に生活が変わるのだ。少なからずともダメージはある。

「音大、行けないんだろうな……」

大学はお金がかかる。それくらい春花は理解している。自分の将来が変わってしまうことを憂いじわじわと押し寄せる感情に泣き崩れた。

「……桐谷くん」

何より静と一緒に音大に行けないことの事実が、春花の胸をぎゅうぎゅうと締めつける。

春花は静とピアノを弾くことがとても幸せだ。あの時間は本当にかけがえのないもので、大切にしていきたい空間である。それはこれからもずっと、静と共にありたいと願うことでもある。

「桐谷くんと離れ離れかぁ」

春花の気持ちは静は知らない。伝えて壊れるくらいなら、伝えずにずっとこうして仲良くピアノを弾いていたい。だから同じ音大を目指していたというのに……。