「桐谷くんは進路どうするの?やっぱり音大目指してる?」

「うん。俺の夢はピアニストだから」

「ピアニストかぁ。なんかすっごくしっくりくるね」

「山名は?」

「私はまだ迷ってる」

「山名も目指せよ、ピアニスト。一緒に音大行こうぜ」

「桐谷くんとはレベルが違うってば」

「なんで?俺、山名のピアノすごく好きだけど」

なんでもなくさらっと放たれた静の言葉は、春花の心に深く刻まれる。

静は子供の頃からピアノ一筋で、通っているピアノ教室で開催されるコンテストでたびたび賞を取っているほど、まわりからも将来を期待されている逸材だ。

一方の春花も子供の頃からピアノが大好きでずっとピアノを習っているが、有名なピアノ教室ではないためコンテストはもちろんのこと発表会すらない、本当に趣味程度のピアノの腕前だった。

「俺は世界中の人を俺のピアノで魅了させるのが夢だ」

「すごい!いつか桐谷くんのコンサートに行きたい」

「まずは連弾で優勝だな」

「うん!」

毎日音楽室でピアノを弾き、休憩中はたわいもないことをおしゃべりする。

春花はこの時間が何よりも癒されるものだった。いつも帰る時間になると寂しくなってしまう。ずっと静とピアノを弾けたらどんなに幸せだろうか。

将来を想像しては頬を緩ませた。