(もし結婚するなら、この花屋さんを一緒にしてくれるような人がいいな……)

そんなことを考えながら出来上がった花束を女性たちに渡し、見送る。その後は花に水をあげたり、花束を作るのに使うリボンなどの在庫の確認をしたり、お客さんの相手をしたり、いつも通りの一日が過ぎて行く。

だが、いつもと違うことに気付いたのは、午後になってからだった。

午後はいつもよりお客さんが少なく、フローラはレジの前で座ってボウッとしてしまっていた。その時、花屋のドアが開いて一人の男性が入ってくる。

「いらっしゃいませ。どんな花をご希望でしょうか?」

フローラは慌てて立ち上がり、笑顔で接客を始める。花屋に入ってきたのは、見たことのない老紳士だった。一見すると地味だが高級なブランドのスーツを着て、頭にはシルクハットをかぶっている。銀の使われたおしゃれな杖をつき、どこかの貴族のようにフローラの目には映った。

老紳士は店の中をぐるりと見ると、フローラに今度は目を向け、ジッと彼女を見つめる。まるで何か品定めをするかのようで、フローラは緊張を覚えた。

「……妻の墓参りに行こうと思っていてね。墓に供えるための花を用意してくれないだろうか」

老紳士はニコリと微笑み、その瞬間、フローラの中の緊張の糸が不気味なほど素早く消えてしまう。フローラは違和感を覚えつつも、「かしこまりました」と言い、老紳士の奥さんの好みなどを聞きながら、花束を用意していく。