「美琴ー、これってどういう意味?」


「あーこれはね…」


「柊さん、この文法ってさ…」


「それはこっちの参考書のほうが分かりやすいよ」


「柊さーん!これ教えてくんない?」


「いいよ。ちょっと待ってね」



クラスはすっかり受験モード。

なぜかみんな私に質問してくる。


でもそのおかげで、前よりもクラスのみんなと仲良くなった。



「ひっ」







「いっ」



きた



「らっ」


教室の後ろの扉のほうから声が聞こえてくる。


「ぎっ」




…スゥー(息を吸う)




「っすぁーーーーん!!!!」




キヨマサ君が今日も元気にピョンピョンしながら教室に入ってくると、みんなを押しのけて私の机に顎を置いてニコニコする。




「おはよう!今日もかわいいね!超かわいいね!!」



「おはよう。ありがとう。」



問題集に目を向けたまま棒読みで挨拶する。




…あのフィーバーから2週間。


私の右腕に居座ってる大袈裟なギプスはもう少しで取れそうだ。


周りは相変わらずキヨマサ君と私が付き合ってると思ってるみたいだけど、実際の関係性は変わってない。


忙しいはずのキヨマサ君は毎日暇を見つけては、愛を伝えにやってくる。






「聞いて!今日さぁ、」


「キヨマサ君。」


「うん?」


「今、勉強中。」


「クゥン…。」


しょんぼりするキヨマサ君。


「あとで聞くね。」


目を輝かせてパァア…と喜ぶキヨマサ君。


「柊さん!好き!」


「…ありがとう。」



私は前よりもキヨマサ君の扱いが上手になった。


キヨマサ君は変わらずニコニコしながら机に顎を乗せてみんなと勉強する私を見てる。

いつぞやの時山君もだけど、キヨマサ君も犬みたい。

好奇心旺盛なゴールデンレトリバー。

ほら、勉強に飽きたみんなに坊主頭を撫でられてニコニコしてる。

本当に野球してる姿とは別人…。