午前の授業を、みんなからの痛い視線と、まさかの先生の「おっ。柊はやっぱり将来、女子アナか?」というイジリに耐えて、
お昼休み。


いつもの10倍疲れた。


お昼ご飯の後の女子トイレは激混みするから、いつも通り人気のない特別教室棟の3階に一人で向かう。



はぁ…しばらくこのフィーバーは続きそうだな。

別に勘違いされること自体は慣れてるし、正直どうでもいい。

実際ちょっと前まで大学生と付き合ってるとかいう根も葉もない噂が流れてたくらいだし。


でも、キヨマサくんに対しては真摯に向き合わなくちゃな。

ちゃんと話して結婚どころかお付き合いする気もないことを伝えなくては、と思うけど

キヨマサ君の勢いに勝てそうにない。 

それにこのフィーバーの中、ごめんなさいなんて言ったらどうなっちゃうんだろう…?

下手したらキヨマサ君ファンに殺されるんじゃないだろうか?



そもそも、キヨマサ君て本当に私のこと好きなのかな…?

面と向かって付き合ってくださいって言われたわけでもないし、ネタで言ってるようにもとれるんだよなぁ。


うーん…頭が痛くなってきた。


額を押さえながら、2階の1番上の段を上がったときだった。






「!」





前方不注意で、男の子とぶつかった。


「ごめんなさ…」


顔を上げる前にバランスを崩して、後方によろける。


あっ、

ギプスをしてる右手側にしか、手すりがない。





落ちる…!









「!」







私はぶつかってしまったその人に、片手で体を抱き留められていた。


必然的にその人の胸に顔をうずめてる。



…心臓の音、すごく大きくて速い。


まだ誰かわからないその人に、瞬時にそんなことを思った。









「あっぶなー…」




「!」









鼻の詰まった、


甘い声。











私はそっと見上げる。







「…大丈夫?」








「…ッ」





…声なんて出せない。










史上、最短距離の時山君に、


私の心拍数は一瞬で時山君のそれを超えた。