「えー、車と衝突して、頭蓋骨骨折と腹部損傷による出血多量……うんうん、よく生きてたね。普通の女の子だったら即死か、重度の後遺症でもいい方だよ。」


大病院の先生にしては若いその主治医は、お腹の傷口をチェックして笑った。

私はどう返して良いかわからなくて、愛想笑いする。


「うん…経過も良さそうだ。包帯ゆるくなっちゃったね。巻き直しとこうか。」

アイコンタクトすると、看護師さんが「持ってきますね」と頷いて病室の外に早足で出て行った。



「あ、そうだこれ。柊さんはこういうの好き?」


そう言って白衣のポケットから取り出したのは、温和な顔をした赤い招き猫の置き物。



「こないだ人に貰ったんだ。赤い招き猫は病気除けのご利益があるんだって。よかったらどうぞ。」


「え…いいんですか?」


「うん。もう一つ持ってるから。
…あ、他の患者さんには内緒ね。」


しー…と人差し指を立てて言うと、私の手を広げさせてその上に招き猫を置いた。


…かわいい。



「ありがとうございます。」



私がお礼を言うと、先生はニカッと白い歯を見せて笑った。





「やっぱり柊さんは赤が似合うね。」



「え?」





コンコン、と扉が鳴って看護師さんが戻ってきた。




「お待たせしました、日下部先生。」












看護師さんが手際良く準備する横で日下部先生は私から視線をそらすことなく、

ニコニコと笑った。