「ねぇ」






朝日に照らされてキラキラ光る猫っ毛をいじりながら、まだまどろみの中にいるその人に話しかける。




「ん…?」




枕に顔を半分埋めながらくぐもった甘い声を出して、薄目で私を見る。




「まだ私たちがバス停で他人だった頃…帰りのバスの中でさ」



「うん」




彼がおもむろに手を伸ばして私の頬にかかる髪をどける。


腕、あの頃に比べてずいぶん逞しくなったなぁ、なんて思う。




「…泣いてたよね?」




私の髪を撫でていた手がピタリと止まった。


その目を丸くして驚く顔、好きだなぁ。




「……見てたん?」




返事のかわりに得意げに笑ってみせると、「なーん」と言いながら枕に突っ伏した。


その姿が可愛くてついいじめたくなる。


「ねーねー」と脇をつつくと、「こら、やめろ」と満更でもない顔で私の手を制した。



「フフ。なんで泣いてたんですか」


「えー…あれはー……あ、寧々が産まれたんだ」


「寧々ちゃん?姪っ子の?」


「うん。」


ムクッと起き上がってベッド上に置いてあった水をひと口飲むと、喉仏がゴクッと動くのが見える。


取り出した部屋着用の上着から、彼のお気に入りのナチュラルリネンがふわっと香る。