「柊さんは?」


「え?」


「これから。大学受験するんだよね?」


「あー…うん。でも実は、なんかしっくりきてなくて。」


「そうなんだ?」


「…なんかうまく言えないんだけど、やりたいこと…というかやるべきことがあった気がするんだけど、わからなくて」


「…」


時山君が、口元に手を当てて何かを考え込む。



…こんなふんわりした悩みを言われても困るよね。


空気を変えようと次の話題を探し始めた時、
時山君がおもむろに口を開いた。




「…柊さんは……月、みたいだよね。」



「月…?夜の月?」



「うん。…あ、ごめん、進路の話から脱線しちゃうけど…

凛としてて、綺麗でかっこよくて…まぶしいぐらい輝いてて、みんなが憧れてる。
実在はしてるはずだけど、いつも高いところにいて掴めない。そんな感じ。」


「……そんなの、恐れ多いよ」




夕日に照らされてオレンジに染まる時山君がハハッと笑った。



「変だと思うかもしれないけどさ。
地上から月に手をかざして触った気になってるだけみたいに
俺が見てる柊さんは、今こうして一緒に観覧車に乗ってる間も、本当にここにいるのかなって不安になるんだ。
どこか遠くに行っちゃうような気がして。」



「え…」






ふと目があう。




気持ちが溢れ出るのを必死に抑えるようなその表情に



私は息を飲んだ







時山君が俯いてハー…と深く息を吐いて、

意を決したように顔をあげて私をまっすぐ見る。





「……保健室で言ったことの続き




言ってもいい?」






「…!」