「やっぱりやめる?」

「いやいや、大丈夫だって。柊さん、好きなんでしょ?」

ギュッと手を握られる。

汗をかいているのに冷たい手が「ぼく緊張しています」と訴えている。

苦手なのに連れてきてくれたんだなぁ。


「はい、それではご乗車になりましたらしっかり安全バーをおろしてくださいねー!」

スタッフさんが明るいハキハキとした声でアナウンスする。

子猫はタタッと行列を戻って下へ降りていった。

ワクワクしてしまう私と、違う意味でドキドキしている時山君は並んでコースターの一番後ろに乗車し、安全バーをおろした。


時山君は安全バーをグッグッと押してしっかり確認してからぎゅっと握ると、俯いて「フーッ」と深呼吸した。
顔をあげてコースターの先を見据える目が、これから戦にでも行くの?という人のそれ。


…面白い。



「…大丈夫だよ。死なないよ。多分。」



時山君がゆっくり私を見る。


「……多分?」


時山君がよにきものBGMが聞こえてきそうな表情でつぶやいたのを合図に、コースターはゆっくり動き始めた。