「…それ、ホント?」




ちょっと困ったような、泣きたいような、でも、嬉しいような

なんとも複雑な顔で時山君が呟いた。


私はその表情の意味を読み取れなくて、ただコクッと頷いた。




「…」







時山君が、さっき離したはずの私の手をとってギュッと握った。


「!」



「…明日」






まっすぐ、まっすぐ私を見る目。


その目に吸い込まれそうになって、


私の耳から駅の喧騒が遠くなって、


時山君の声だけがクリアに響いた。



「…え?」




「明日、あいてる?」




「あした…?うん、あいて、る…けど。」




「…朝9時に春寝駅に迎えに行く。」




「…」




言葉の意味が理解できなくて、声が出せなかった。




「…じゃあ。」






時山君はそれだけ言うと私の手をそっと離して背を向けた。


そのまま階段をひとつ飛ばしで駆け上がってあっという間に見えなくなった。




アサクジニ、ハルネエキ



脳が処理不良を起こして日本語変換が遅延した私は、ひとまず足を一歩ずつ踏み出して駅の階段を登り始めた。
















「…朝9時に……春寝駅……。」




ようやく変換できた時には


私は人気のない電車に乗っていて、


春寝駅をずっと前に降り過ごして終点に着こうとしていた。