「時山君とは、あれ以来?」


「そうだね。話してない。」



もちろん会ったら挨拶ぐらいはするけど。



優花が声のトーンを落としてひそっと言う。


「でも…告白まがいのことされたんだよね?」


「…うん。」





あれは幻だったんだろうか?と思うほど



あのあとから、何もない。




「そっかー。まぁ受験生だし、色々落ち着いてからってことなのかねー。」


「…まぁ、なんか勘違いだったかも?」


「え!?なにそれ、どういうこと?」


「…ま、忘れて。これもあげる。」


優花の白米の上にほうれん草の胡麻和えも乗せて誤魔化すと、優花が「やったぁーーー!!」と唐揚げ以上に喜んだ。





数ヶ月経った今になって思うと、時山君は勢いであれを言っちゃったのかもしれない、と考えるようになった。


とんでもない事件の後で体も痛い中、
感情がわけわからなくなっちゃったのかなって。


そうじゃないと、なんでこんな長期間何もないのかわかんない。

だって、私としてはあんな告白みたいなこと言われて

ドキドキして混乱してどうしようってぐにゃぐにゃ考えて…収拾がつかなくなっちゃったのに、そのまま放置って。

さすがに酷いんじゃないかな。


違ったなら違ったと言って欲しいし


そして好きなら好きだとはっきり…








『好きって言ったら、困る?』












どうしよう



それはそれで、困るかもしれない。








時山君に会うと起こる私の体のさまざまな不具合は、

明らかに時山君が好きです、というサインに思えるんだけど


『違う』『そうじゃない』って、何かが警鐘を鳴らす。



きっと、夢の中のあの人のせい。



夢の中の彼は存在を愛おしいと思うのに、顔にはモヤがかかったようにハッキリしない。




ずっとモヤモヤモヤモヤ、モヤモヤモヤモヤ、している。




正体のわからない不安。




本当にどうしたらいいかわからない。


手詰まり。






自然にため息が出てしまった私はまた考えることをやめて、なめ茸ご飯を口に運んで「おいしい」と呟いた。