森下を自分の左側に抱き締めて、幸せな余韻に浸っている。
「なんか、言いたいこと沢山あるけど、今はただこうしてていい?」
今はただ、森下を抱き締めていたい。
思いが同じという今までにない、満たされた感覚。
それと同時に過去の俺の恋愛観に項垂れる。
本当に相手に失礼なことをしてきたのだと、思い知る。
「・・・はい」
返事と同時に森下が俺の体に腕を回す。
森下の柔らかい感触と香り・・・。
お、森下、まて。
それは・・・ちょっと、まてまて。
んー。
これはさ。
誘ってる?
・・・そんなわけねーか。
時計を確認すると、まあ一緒にいることが出きる時間は1時間10分くらい。
この時間では無理だよなー。
やっぱり、ゆっくりしたいしな。
森下の顎に触れ、少し上を向かせる。
涙は止まってるみたいだ。
少し赤くなった鼻と、ちょっとだけ腫れぼったくなった目にきゅんとする。
可愛い。
おでこにキスをすると止まらなくなる。
そのまま目蓋にキス。
赤い鼻にキス。
頬にキス。
そして、唇にキスをした。
はじめは軽く。
ちゅっ。
少し離してから、もう一回。
角度を変えて。
「少し口開けて」
素直に開けてくれた口にゆっくりと舌を入れる。
様子を見ながら嫌がらない程度に。
一生懸命答えようとしてくれる姿に嬉しくなる。
唇やわらけー。
すっげ、気持ちいいな。
少し夢中になると、
あ、やべ。反応する。
そこからは、もう自分との葛藤。
キスしたい。
してると、あ、やべえ、反応する。
の繰り返し。
天国か、地獄か。
終電の時間まで、話もあまりしないまま、自分と戦いながらもキスはやめなかった。
玄関で見送られる。
さっきとは全然違う。
森下の頭を撫でて、ちょっときつめに抱き締めて、ゆっくりキスをして。
「また明日な」
今までにない幸福感に包まれて、俺は森下のアパートをでる。
「はい、また明日」
森下はちょっとボーッとしてた。
やりすぎたか。
・・・まあ、大丈夫だろ。
自己満足なのかもしれないが、本当に幸せだ。
駅までの道のりの足取りは軽い。
電車のなかで、これまでの時間を思い出して、楽しくなって。
電車を降りてからの帰り道。
空を見上げると、月はやっぱり少し欠けていて、だけど明日は真ん丸になるだろう。
俺の気持ちも真ん丸だ。
明日もいつもと変わらない日々が続いていくのだろう。
だけど、俺の日々は変わってく。
きっと幸せな方向に変わっていく。
そうなるように努力しよう。
森下と一緒に。
完。


