玄関が騒がしい。子供たちが朝のジョギングから帰ってきたのだろう。
「ちゃんと手洗いとうがい、しなさいよー」
「はーい」
「かめさん、かめさん♪」
洗面所から聞こえてくる歌声に、夫が首を傾げる。
「何だあれ」
「手洗いの歌よ。学校で習ったんだって」
「ふーん……何の匂い、これ」
「小豆粥。小正月だから」
「──えーと、一月十五日におこなう行事のこと、か。それ朝メシ?」
「思いつきでごめん、好きじゃないかもしれないけど」
「いや、……そういう年中行事、嫌いじゃない」
言葉の間の空白に、夫は自分の母親を思ったのだろうか。母子家庭で裕福ではなかったけど、小さな行事でも欠かさなかった人だと聞いている。
「そう? じゃ来年も作るね」