式が終わりゼミの集まりを終えると、それぞれの場所に卒業生は散っていった。部活の仲間の元に行く人がほとんどで、中には一眼見にきた親と記念写真を撮る人もいた。
 実は俺もそんな人たちの一人だった。大きな噴水の前で待っていると、待ち人たちはすぐにやって来た。俺の名前を呼ぶ優しい声が背後から聞こえると、そのすぐ後にもう何年も聞いていなかった懐かしい声がした。
 振り返った俺に二人は笑顔を向けてくれた。その笑顔を見て緊張していた俺の筋肉が弛緩する。

「匠真、卒業おめでとう。——大きくなったな」

 懐かしい声とその笑顔が視界いっぱいに広がる。小さいころ、俺はこの人みたいになりたいと思っていた。その気持ちが一気に蘇ると目頭が熱くなってくる。

「——もう父さんより背高いかも」

 そう言った声が震えているのが分かった。それを誤魔化すように笑うと、父さんは俺に近寄り、髪をくしゃっと乱してきた。

「おかえり、匠真」

 そう言った父さんの声も少し震えているようだったけど、それには気づかないふりをする。俺は「父さんも、おかえり」と言ってその大きな胸に恥ずかしげもなく抱きついた。誰に見られていても構わなかったし、この幸せを見せつけたかった。

 真っ白な世界に家族が揃った。それなのに収められた写真は物足りなさを語っている。まだ足りない。ここに一緒に写ってほしい人が、まだ他にもいる。