大学三回生になった私は本格的に就職活動が始まり、今日は学内であるセミナーに参加するため、すっかり慣れてしまったリクルートスーツに袖を通していた。地元を離れて東京に出てきてからもうすぐ三年が経とうとしているけれど、未だに電車は乗り間違えるし、人混みには酔うし、どうやら私は都会に染まれない体質のようだ。

 昼から始まるセミナーに間に合うように家を出て、朝のラッシュ時よりも格段に少ない乗車率に安堵の気持ちを抱きながら電車に乗り、大学へと向かう。電車の揺れは心地のいいものではないけれど、どこからか聞こえてくるイヤホンの音漏れはなぜか好きで、今日も何の曲かは分からない音を聴きながら過ごした。
 電車から降りると十二月の冷たい風が体にしみこんできて、不本意ではあるけど全身で冬を感じられた。スーツの上に羽織っているコートのボタンを上まで閉めて隙間風を遮ると、ほんの少しだけ暖かくなった気がして、両手でぎゅっと襟をつかんだ。駅から歩いて十分ほどの場所に位置する大学までをそうやって寒さを凌ぎながら足を進めていく。

 今日開催されるセミナーには多くの企業が来る予定で、私のように将来の夢もやりたいことも見つかっていないような学生にも来てほしいと、学内に貼りだされていたポスターに書いてあった。その誘い文句に騙された学生もきっと多く参加するため、大学までの道中にはスーツに身を包んだ学生が大勢いた。企業側はどこから就活生を見ているか分からないとよく言われるからか、周りを見渡すと背筋を伸ばして姿勢よく歩いている人が多く見られた。少なくとも私のように下を向いて自信なさそうに歩いている人は一人もいない。