中学生になってから、二人の時間は一気になくなった。部活も始まり、私は吹奏楽部、匠真はサッカー部に入部した。するとすぐにお互い忙しくなり、お隣さんであっても登下校を共にすることは自然となくなっていった。
 それに加えて、一クラスしかなかった小学校とは違って三クラスある中学校で同じクラスになることは三年間で一度もなかった。それでも移動教室や休憩時間に廊下ですれ違うと、「よっ!」と背中を優しく叩いてくる匠真に私は相変わらず恋をしていた。この関係ですら私にとっては幸せだったのだ。
 それにはきちんとした理由があって、単刀直入に言うと匠真は女の子から人気があった。それもかなりの人気だ。中学に入って更に伸びた身長は男子の中でも高い方だったし、短髪の黒い髪に似合う大きすぎない二重瞼の瞳。そして鼻筋は綺麗に通っている上に口角の少し上がった口元を兼ね備えた容姿は、女子の目を引いて当然だった。
 私はというと身長も体重もごく平均。中三にもなると髪型をオシャレに巻いたり編み込んだりする子が増えてくる中で、私は肩にかかるくらいのごく普通のボブ。もちろん化粧なんてしてないし、したこともなかった。今思い返してみても、匠真の横に並ぶには私は普通過ぎていた。

 そんな私が人生初の告白をされたのは卒業式の前日のことだった。相手は同じクラスの男の子で、三学期から隣の席になり仲良くなった秋葉《あきば》君という子犬のような顔をした子だった。突然の告白にとても戸惑ったし、何より初めてのことで自分が取るべき行動が分からず頭が真っ白になった。そんな私に対して、「返事は明日聞かせてほしい」と伝えて秋葉君は去っていった。
 もちろん答えなんて考える必要はなかった。好きな人がいる、これがすべてだ。だけどこの時の私はどんな風にそれを伝えるかということよりも、好きだという自分の気持ちを素直に相手に伝えられた秋葉君の勇気に感動していた。

 その日の帰りには久しぶりにあの公園に寄り、ブランコに誰もいないことを確認すると自然と小さな溜め息が出た。このブランコに座るのはいつ振りだろうか、そんなことを思いながらゆっくりと腰掛けると、小学校卒業を目前にした西日の強かった放課後をふと思い出した。

「匠真は好きな人いるの?」

 気が付くとそう口から出ていた。あの時の記憶の延長線上で私の心が無意識に発したのだ。自分の言った言葉をしっかりと鼓膜で受け取ると、心臓が痛む。この時匠真は両親の離婚が決まり母親と共に地元を離れることが決まっていた。これから別々の道にいくという現実が気分を憂鬱にさせる。私の心の明暗はいつも匠真によって決まるのだ。だけどもうすぐそんな日々ともお別れだと、そう言い聞かせると自分の感情が空っぽになっていく。それがどうしようもなく怖くて、両手を強く握りしめた。