それから私たちはどこに行くにも何をするにもいつも一緒だった。登下校を共にして、放課後になると必ずアパート裏にある小さな公園のブランコに座りながら、その日に起こったたわいもない話をして帰る。そんな生活を繰り返しているうちに、匠真は初対面のあの時のような可哀そうな男の子ではなくなっていた。小学校を卒業する頃になると、ブランコから伸びる私たちの影も匠真の方が大きくなっていて、なぜかとても嬉しくなったことを今でも覚えている。


「なんか最近教室で女子たちすごい盛り上がってるけど、何の話してるの?」

 漕いでいたブランコを足で止めて、私の方に顔を向けた匠真が言った。西日に照らされた彼の顔が眩しくて思わず目を閉じる。閉じたまま陽が正面から当たらない方向を探し出し、そこでやっと目を開ける。横からの視線を感じながら、「恋バナってやつ。男の子には入れない世界なの」と、これ以上話を広げないでという願いを込めながら答えた。

「ふーん。それって誰が誰を好きとか、そういうやつ?確かに男子はそんな話しないなぁ」

 その反応に、やっぱり匠真はそんな話に興味なんてないのかと少し寂しくなる。今日教室で友達から言われた『琴音と一ノ瀬君って絶対両想いだと思う』という台詞を思い出すと、顔が熱く燃え上がりそうになった。だけどきっとそんな都合の良い台詞は、私の恋を応援しようと皆が背中を押してくれただけにすぎないのだろう。恋に無関心な匠真と友達からの応援が心の中でぶつかり合い、心臓が誰かにぎゅっと掴まれたように痛んだ。

「——いるの?」

 心臓の痛みに集中し過ぎていたせいか、私は匠真の言った言葉をうまく聞き取れなかった。すぐに、「ごめん、何?」と聞き返したけど、それに対しての返事はなく、「そろそろ帰ろうか」とだけ言って立ち上がる匠真に倣って私も不承不承に帰路についた。
 肝心なことを何も言えない、聞けない。思えばこの頃から私は逃げてばかりだったのかもしれない。


「琴音も好きな人いるの?」

 家に帰ってからずっと匠真の言葉を思い返してはどうにか答えにたどり着こうとしていたせいなのか、その日の夜は匠真からそう聞かれる夢を見た。長い夢を見ていたはずなのに、目が醒めた時には、不思議とその言葉しか覚えていなかった。もしあの時匠真が私にそう聞いていたとしたら、私は素直に答えられるだろうかと、子どもながらに必死に考えたけど、考えれば考えるほど身も心もすべてが匠真で埋め尽くされる気がして、その時は途中で考えるのをやめた。