その後は二時間ほど五人で盛り上がり、私たちは皆で連絡先を交換した。榎本君がグループチャットを作り、また五人で集まろうという話にもなった。嬉しいようで恥ずかしいような気持ちを抱えながら、店を出る前にもう一度トイレに行くと、友梨ちゃんが嬉しそうにスマホの画面を見せてきた。そこには榎本君からの「頑張れ」というメッセージが記されている。

 どうやら最初から全てを知っていた榎本君は、私たちがトイレから出てくると既に姿を消していた。それについて宮部君から「用事があるから先に帰った」と聞かされた私たちは顔を見合わせ、そして笑い合った。

 ここまでは良かったのだけど、この状況下に一瞬で現実を思い知る。二人きりにすると言ったものの、そうすれば私は飯村君と二人になってしまう。数時間前に沈めたはずの欲はすぐにでも出てきそうだ。

「じゃあ俺、浅倉さん送って帰るよ」

 突然私の耳に入ってきたその声に驚きと喜びと緊張が入り混じる。戸惑いながらも、彼の優しい声が私の冷えた体を暖めていくのを感じた。

 結局、飯村君の粋な働きで友梨ちゃんと宮部君を二人きりにすることに成功した私は、ひとまず安心した。二人をちらっと見ると、友梨ちゃんは嬉しそうに私の元へ駆け寄り、「今日はありがとうございました」と軽く頭を下げてきた。寒さと緊張で酔いが少し覚めた様子の彼女は、最後に耳元で「琴音さんも頑張って」と言い、宮部君の横に並んだ。そんな二人の後ろ姿を見ながら、私は心の中で榎本君と同じように「頑張れ」と呟いた。母が言っていた通りでありきたりな言葉ではあるけれど、恋する後輩にはとてもよく似合う言葉だと思った。

「じゃあ、俺らも帰ろっか」

 二人の姿が見えなくなってから飯村君が白い息を吐きながら言った。抑えの効かなくなった欲に向き合う覚悟をした私は「うん」と頷き、まだ賑やかな街で彼と肩を並べた。

 具体的なことなんて何にも浮かばないけれど、私も頑張るよ。見えなくなった後輩に向けて心の中でそう呟きながら歩く道は、眩しいくらい明るく感じた。