気持ちを落ち着かせるためにトイレに向かっていると、そんな私を追いかけるようにしてやって来た後輩を見つけた。千鳥足で近寄って来る彼女に、「大丈夫?気分悪い?」と声をかけると、

「気分は最高にいいれす」

 と、彼女は呂律の回らない舌で答えた。えへへと照れ笑いする姿を見ていると、どういう訳か私の気持ちも段々と落ち着きを取り戻してくる。
 私の体に身を寄せながら、「私ね」と話し出した彼女は酔いがまわりながらも真剣な表情を作ってみせた。

「宮部先輩のことが好きなんです」

 突然の告白に驚いたけれど、今日の彼女の様子を見ていて納得いく部分もあった。本気だと感じた私の勘は間違っていなかったのだ。

「中学の時からずっと先輩のことが好きだったんです。でも、一度もそれを伝えられなかった。結局卒業後は高校も大学も別々で、それからはもちろん会うこともありませんでした。——何度も忘れようとしたんですよ。他に好きな人でもできれば、この気持ちも忘れられると思って、違う人と付き合ったりもして……。でもやっぱり、初恋には敵わなかったです。先輩は私の初恋なんです。ちゃんと気持ちを伝えられてたら、きっとこんなにもこの気持ちを引きずることもなかったと思うんですけどね。過去の自分が今の自分を苦しめてるんだって気づきました。伝えられなかった想いとちゃんと向き合おうって決めたから……だから今日は頑張りたいんです」

 アルコールのまわった頭で一生懸命伝える彼女の姿に、正直私は感動すら覚えてしまった。とても素敵で、かっこよかったから。私にはない本当に素晴らしい魅力だと、心の底から思った。

「よし分かった。なんとか二人きりになるようにするから、そしたらその時頑張るんだよ」

 そう言って握った彼女の手は私の手よりも冷たかった。