夢の中の公園は、あの頃と何も変わっていなかった。一歩ずつ踏みしめるように足を進めると、少し錆びた赤色のブランコが目に入る。あそこに座って匠真とよく話をしたものだと感慨に耽っていると、そこから伸びる二つの影に気がついた。一つは大きく伸びる影。そしてもう一つは、一方よりも小さく見えた。それはちょうど大人と子どものようにも見えて、誰だろうと急かされるように私は少し足早に近づいていく。

「琴音、何してんだよ。早くこっち来いよ」

 懐かしい声に体が反応して、一度足を止めた。匠真だ、匠真がそこにいる。ブランコを漕ぎながらこちらに手を振る彼は中学の制服を着ていた。記憶の中の匠真とピタリと重なる。卒業式の前日にここで会った彼の姿が、今私を呼ぶ彼の姿と一致した。私はあの時と同じように服の袖をぎゅっと握ると、その感覚に懐かしみを覚えた。もしかしてと思いそれに目をやると、思った通りでどうやら私も制服を着ているようだ。そうか、夢の中の私たちは思い出のまま、十五歳のままなのか。それならば、匠真の横に伸びる大きな影は一体誰だろう。その顔を一眼見ようと試みるが、西日が眩しくてよく見えない。近づけば近づくほど目を開けていられなくなった私は、目を閉じたまま匠真に尋ねる。

「ねぇ、匠真。横にいるのは誰?」

 目を閉じていても感じる陽の光に、私はさらに強く目を閉じた。それでもその正体を知りたくて、足だけは一歩ずつ前へと進めていく。そろそろ目を開けようと思った瞬間(とき)、匠真の声が私の進む足を止めた。


「知らない人」


 聞き慣れたその声から放たれたその言葉で、私は目を覚ました。