「佳那ぁ〜」
「どうしたの、弥優?」

先生の自己紹介も終わり、帰宅時間になって。
私はすぐさま、佳那の元へ向かった。

「さいっあくだったの!」

私が瀬凪の事を愚痴ると、佳那は首を傾げながらも話を聞いてくれた。
話を聞き終わった佳那は、「あー、それはね……」と、私に同情してくれた。

「何、そいつ! ひっどいねぇ。そんなんじゃモテないよ。瀬凪だっけ?」

「佳那、ちょっとボリューム」

教室全体に響かんばかりの大声で憤慨している佳那を、私は慌てて制した。

本人に聞こえたら恥ずかしいし…何より佳那が心配。私に味方して、佳那まで嫌われたら私は立ち直れない。

「言わせてよ、弥優が可哀想。やまんばって、流石に酷い」

「私、悪くないよね? やっぱ、理不尽……ムカつくっ!」

私は小声で返し、佳那の机に突っ伏した。

「あー、私ってツイてないや。……あ、そう言えば佳那!」
「どうしたの?」

手鏡で前髪を直していた佳那が、私の方を見た。
意識高いなぁと思いつつ、私は続けた。

「あのね、さっき野山くんに会ったよ」

私の言葉に、佳那の丸い瞳が更に大きくなった。
「…えっ! ホントに?! いいなぁ!」
佳那は自分の事のように嬉しがり、ふふふ〜と鼻歌を歌い出した。

「ちょ、佳那、どうしたの?!」

「だって、野山くんイケメンじゃん。弥優、めっちゃツイてるぅ〜!」

さっきまで、ツイてないって思ってたのに!
野山くんって、佳那にとって憧れの存在なんだろうなぁ。

「推しなのよ、推し!」
佳那はそう言って、にっこり笑った。