「あっ……」

目の前に立っている、この学校の学ランを着た男の子の不機嫌そうな顔を見て、私が彼にぶつかってしまったのだと悟った。

その途端、ぶつかった時の記憶が、脳内にフラッシュバック。
顔面から彼に突っ込んでぶつかって。視界の端で、おろしていた髪が揺れて……。
あぁ、これ、私が悪いじゃない。

彼の丁寧に切りそろえられた黒い髪は、女子の私も羨ましいほどのストレートヘア。目はくっきりとした二重で、今みたいに目を細めてなかったら、普通に整った顔だちだった。

「ごっ…ごめん…ね? 大丈夫だった?」
ピカピカの制服を見て、この人が同学年らしいと察した私は、思わずタメ口を使ってしまった。

「……」

それなのに、男の子は黙ったまま。
「な…何か言ってよ」
沈黙に耐えられなくなった私が言うと、彼はようやく口を開いた……かと思うと、

「どけ、邪魔」

と、言った。

「…は?」

人が謝っているっていうのに、なんて失礼な! 邪魔って何?!
怒りでわなわなと震えている私の横を、スタスタと通り過ぎて行く彼。

「な…ちょっと、待ちなさい!」
私が思わず呼び止めると、彼はちょっと立ち止まってこっちを振り返って……。

「ふっ」

と、ニヤリと鼻で笑った。

「なっ?!」

「そんなとこに突っ立って、何してんの?」

「ええっ?!」
何してんのって…あなたのせいでしょ!
私は頭にきて、彼を睨む。あんな奴とだけは、もう関わりたくない! どうか、違うクラスでありますように!

もう一度彼の方を振り返ると、予想に反して彼はまだ居て。
パチッと目が合って、彼はちょっと顔を赤くして目を逸らした。…怒ってるのかな? 怒るのは、こっちだよ!