「ゼッケン…ゼッケンかぁ……」
放課後。

佳那のゼッケンの話を思い出して、ふと、窓の外に目を向けた。

窓の外に見える色とりどりな庭園は、この席だけの特権。
入学式の日には散り始めていた大きな桜の木は、もうほとんど葉桜。でも、名前は分からない紫色の花はまだ咲き誇っていた。

「桜が…“主人公”がいないから、目立てるんだよね」

春の代表格、桜が散った後だから、無名の花もようやく見えるようになる……。
……主人公と言えば、佳那だ。
私はきっと、引き立て役の、紫の花ーー。

……って! 何考えてるの、私。

何てこと考えてるんだ。自制しなきゃ。
自分の頬を、パチンと両手で叩く。

でも、確かに、佳那は主人公だと、思う。それに、いくら無自覚だとしても、さっきみたいに「玲亜ちゃんの方が野山くんが好きになる可能性がある」とか断言して、「自分のことは本当に可愛いと思ってない」というアピールするのは、可愛い佳那には逆効果。
むしろ、狙ってそういうことを言っているんじゃないかとさえ、思えてくる。

「でも、佳那は親友だから……」

佳那とは、昔から、仲がいいんだもん。自分のことを1番わかってるのは佳那だって、私も思ってる。
逆に、佳那のことを1番わかってるのは私だって……言いたい。

「だけどなぁ……」

「みゆうちゃん」

とそこへ、ぬっと視界に入ってきた人物がいた。

「きゃっ! って、優空ちゃん?」

そこにいたのは、「驚かせちゃった」とクスクス笑う優空ちゃんだった。

「佳那かと思ったよ……」
佳那じゃないことにホッとしている自分がいて、少し困惑する。

「みゆうちゃん、何してたの? 考え事?」

優空ちゃんは、大きな黒瞳で私を見つめた。それが何だか黒ネコの瞳を見ているみたいで、慌てて目を逸らした。

「ちょっとね。優空ちゃんは?」

「副委員長会議に出てたのよ。あ、みゆうちゃんは、秋元さんを待っていたの?」

「そうなんだけど……」

「どうしたの? なんでも相談乗るわよ。……悪口でもね!」

そう言った優空ちゃんの顔には、うっすらと、嬉しそうな微笑が浮かんでいた。