「1組は…最前列じゃん」

体育館に入ってすぐ、佳那が、げんなりした顔で呟いた。

「1組だもん……」
1って、めんどくさいことばっかり。

体育館は、思ったよりも広かった。
入学式用に並べられたパイプ椅子は、1列辺り充分過ぎるほどの間が空いていて、余裕たっぷり。天井も高くて、余計広々として見える。
それぞれ並べられた椅子に座って、ようやく一息つけた。

暇だし、荷物の確認でもしてようかな。

私はスクールバッグを開けて、中身を確認しだした。何かしてないと、落ち着かないんだもん……。

…あれ? ない。

中身を引っ掻き回し始めてすぐに、私は違和感を覚えた。

「家の鍵が……」
そう、無かった。家の鍵が! ちっちゃいから、隙間から落ちたのかもしれない。さっき走ったから、その時に落ちたのかも……。やばい、どうしよう。どこの家のかなんて分からないだろうけど、無くしたらお母さんに怒られる。まだ落ちてるかな? 時間あるし、探した方がいい?
迷っていたら、ちょうど女の先生が前を通った。

「あ、あの」

事情を説明すると、先生はすぐにOKを出してくれた。

「始まるまでには戻ってきてね」
「はい!」

バッグを席に置いたまま、身をかがめて走り出す。慣れないローファーのせいで、カツカツ足音がなってしまった。でも今は、そんなことを気にはしていられなかった。

さっき来た道を、走って戻る。
時間ギリギリだからか人はまばらで、あまり注目を集めることもなかったから、気にせず走れた。

誰かに拾われたら絶対面倒くさいことになるから、早く回収しないと!

しーんとした廊下に響くのは、私の足音だけ。
ふふ、なんか青春のワンシーンみたい! なーんて思いながら走っていたから、……前を見ていなかった。

ドンッ!

その音と共に、後ろに弾き飛ばされた。突然背中に走った衝撃と視界の逆転に、私は困惑した。

何が、起きたの?

突然のことすぎて、理解が追いつかなかった。

おそるおそる顔を上げると、目の前には、黒い学ランを着た男子が、不機嫌そうな顔をして立っていた。