地面いっぱいにひかれている、桜の花びらのカーペット。
それは、私たちの入学への道を繋ぐロード。

ふふ、なんだか素敵。
しゃれた事を考えながら、私、如月弥優(きさらぎみゆう)は新しい学校への道を歩いていた。

ピカピカに磨かれた皮のローファー、おろしたてのハイソックス、まだ硬いセーラーの制服。
風が吹くたびに、朝に何度も結び直したリボンが揺れて、改めて制服を着ていることを実感させられる。

私は今日から、待ちに待った中学生。
初めて着るセーラー服は、まだ子供の私には似合わないけど、とっても可愛い。

「弥優!」

後ろから私を呼ぶ声がして、私は振り返った。

「佳那!」

私を呼んでいたのは、小学校時代からの親友、秋元佳那(あきもとかな)
小学校時代と変わらず、長い髪をツインテールに垂らして、ぴょこぴょこ跳ねながらこちらへと向かってくる。その動作が可愛くて、私はクスリと笑った。

「相変わらずだなぁ、佳那は」

追いついてきた佳那に私がそう言うと、佳那はプクーっと顔を膨らませた。

「相変わらずって! 子供だって言いたいの?!」
「あはは、冗談だよ」
「もう、弥優〜!」

佳那はそう言いながら、顔に張り付いた髪の毛をサッと払った。その瞬間、フワッと甘い香りが漂い、ドキッとする。

佳那……やっぱり、変わった、かも。

「同じクラスになれるかな〜」
「…ね」
「あ、そう言えば弥優、そのピン可愛い! 新しく買ったの?」

佳那は、前髪を留めている私のピンに気付いて、そう言った。

中学生だしって、背伸びして買ったオシャレなピン。これまでは、花柄とか、柄系しか持っていなかったから。

でも佳那、私は佳那には叶わない。気付かないうちに、佳那はどんどん可愛くなっていく。

「前から…持ってた」

ピンだけじゃ、ほとんど変わらない。
謎の意地が働いて、私は、小さな嘘をついた。

「そうだっけ? これ、弥優にめっちゃ似合ってる!」
私の気持ちを知らず、佳那は無邪気にそう言った。
可愛いなぁ、佳那……。

そうこうしているうちに、私たちは中学校に着いた。
新しい生活が、始まるところ!

「おー、毎日見てたけど、制服着てから見ると新鮮な感じ」
「それな」

近所の中学校だったから、小学生の時も何度も目にしたこの校舎も、自分がこれから生活するところだと意識すると、幾分か違って見えた。