午前7時30分いつも通りに家を出る。
5月も半ばで太陽が少し眩しかったが、スカートを2回折った足は自転車の風で少しひんやりとしていた。

高校2年生になった響は、クラス替えも問題なく新しい友達も出来た。
1年生の時に先輩達のヘアスタイルに憧れて伸ばした髪も、もう背中まで伸びた。
今では癖ひとつないストレートになっている。
毎朝ヘアアイロンで入念に仕上げているからである。

「間もなく1番線に アクセス特急 羽田空港行き列車が参ります。」

響が降りる駅はアクセス特急が止まる駅だが、この電車には乗らない。
1年生まではこの電車を乗っていたが、去年の冬から乗れなくなった。
大きな音が苦手になってしまったのだ。
アクセス特急は各駅停車の電車よりも走行音が大きいからだ。

「間もなく1番線に 各駅停車 羽田空港行き列車が参ります。」

響は1両目の端の席に座った。
走行してから少しして、電車が次の駅に止まった。
響はドアを見つめる。

「あ…来た。」

2人のサラリーマンの後にスラリとした男子高校生が乗ってきた。
アクセス特急ではなく各駅停車に変えてから毎日会うその彼を、響は気になっていたのだ。
県でも有名な進学校の制服を着ている。
整った容姿にサラサラの黒髪。
今流行りの韓国風ではなく、誰が見ても好まれるような風貌をしている。
いつも彼は、スマホをいじることも本を読むこともしない。
ただ、朝の気だるさに目を瞑る。

響はイヤホンを耳にした。
自分に勇気があったなら話しかけることが出来るかもしれないのに…
そんなことを考えながら、響の降りる駅に着いてしまう。
結局いつものように目も合わせることも出来ないまま、気づけば学校にいるのだ。

「響〜おはよ。」
「おはようー。」
クラスメイトの菜穂と愛美が声をかけてくる。
菜穂は1年の時も同じクラスで、愛美は2年から仲良くなった。
他にもフレンドリーなクラスメイトが沢山いて、響はクラス運に恵まれたと心底思っていた。

「今日も会って来たんでしょー?!例の彼。」

愛美が食い気味に身を乗り出した。
顔が満面の笑みで可愛らしい。
愛美は恋バナが好きなのだ。

「え〜?…いつも通りだったよ?気が散るからずっとイヤホンしてたし。」

「なんだぁ残念!ちょっとは進展あるかと思ったのに。」

この会話もいつもの日課になっていた。
菜穂は