渡海 夢叶(トカイ ユウト)、私の好きな人。
3回一緒に帰った。
バレンタインにチョコを渡した。
ホワイトデーにお返しをもらった。
ただそれだけの関係。

「一緒に帰ろう。」
初めてそう言われた時私は本当に嬉しかった。今でも覚えている。

あれはクラブの終わりだった。
クラブって言っても普通の部活とかじゃなくてなんか特別活動っていうもので、
部員は私と渡海も含めて7人ぐらい。
その日来ていたのは私と渡海と先輩2人。
めったに活動がなく、来ても来なくても自由っていうのもあって、
渡海が来たのは半年ぶりぐらいで、正直来ると思ってなかったからすごくびっくりした。

私は1人で帰るつもりだった。
渡海は先輩と話していて、別に何も言う必要もないと思って荷物を持って教室を出ようとしていた。
私がいても気を使わせるだけだと思って。

なのに渡海はそれに気が付いて
「かえんの?ちょっと待って一緒に帰ろう。」
と言ってきた。すごく自然なさりげない言い方だった。
男子にそんなこと言われたのは初めてで、


私と一緒に帰っても方面違うし駅までしか一緒にいられないのにいいの?
私なんかと一緒に帰ってるのを他の男子に見られたら色々言われちゃうよ?
私と帰るより他の友達と帰ったほうが楽しいよ?


とか色々思いながらも、
「いいよ」
と言っていた。



きっと私は心のどこかで渡海のことが気になっていたんだと思う。



もう男子とは関わらないと決めていたはずなのに。
渡海は私のようなブスでちんちくりんの陰キャが好きになっていいような相手じゃないと、
そうずっと自分に言い聞かせていたのに。

なのに…なのに…私はあの時断れなかったんだ。
渡海のあの真剣な顔から目をそらすことができなかった。