「あの。スティールが帰国したのよ」

 待ち合わせたカフェの一室で、先日の婚約破棄の一件を謝罪したエリザベスが遠慮がちに話を切り出した。
 彼女はテンネル侯爵夫人。わたくしシャロンの娘フローラと婚約解消したエドガーの母親でスティールは次男に当たる。
 金髪に空色の瞳。きれいな顔が今日はくすんで見えた。頬も少しこけたかしら? いつもの元気溌溂とした覇気がないわ。
 あれだけの大失態を息子がやらかしたのだから、当たり前よね。少しは反省してもらわないと困るわ。
 
 フローラとの婚約が成立してから、二、三か月に一度の割合でお互いの家を行き来したり、レストランやカフェで食事をしながら母親同士の親交を深めていた。わりと気も合ったから楽しかったのだけれど。それも今日でお終いかもしれないわね。

「そう。でも留学期間はまだあるのではなかったかしら?」

 隣国の全寮制の学院に入学して成績も優秀だとか聞いていたけれど。

「ええ。そうだったけれど、エドガーのことがあったでしょう? だから至急帰ってくるように連絡したのよ。今週帰国して、王立学園への編入手続きも済ませたから、来週から登校することになったわ」