婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

 ディアナは同情を含んだ瞳でエルザたちにそっと視線を送ります。
 答えに困った彼女たちは微妙な顔をしていました。頷くことも左右に首を振ることも難しいでしょうから、時には無になることも必要でしょう。使用人も不快な感情を出すことは良しとはされませんからね。

「お前たちが出て行けば平和になるさ」

「はあ……わかったわ。すぐに出て行くわよ。さっ、フローラ帰りましょう」

 さすがにカチンときたのか、ディアナは手にしていたカップをソーサーに戻すと立ち上がりました。
 そうですね。ずいぶんとお邪魔をしてしまいました。レイ様もお忙しいでしょうにご迷惑をかけてしまいました。
 
「そうね、ディアナ」

 リッキー様を起こすか、どなたに連れて行ってもらうか。どうしようか考えていると

「ローラは関係ない。ここにいればいい」

 レイ様の言葉に一瞬動きが止まりました。
 私もそろそろ帰らせてもらいたいのですが……この気まずい雰囲気の中ずっと居続ける度胸もありませんし、本来ならこの時間は自邸で寛いでいる頃だと思うのですが。

「まあ。何を言ってるの、この子」

 どうお断りしようかと悩んでいたら、突然空を引き裂くように呆れた声が部屋中に響き渡りました。
 威厳ある空気を纏って颯爽と部屋に入ってきた王妃陛下は私達の前に立ちました。
 王太子妃殿下は後ろに控えています。