「レイ様、お待たせいたしました」

 商談に夢中でレイ様を忘れていたなどとは口が裂けても言えませんわね。相手は王子殿下ですもの。

「うん。長い間待たされて心配してたけど、先生からたいしたことはなかったって聞いたから、安心した」

 診察はすぐに終わったけれど、室内履きのことで時間をとってしまったのでやきもきされていたのかしら?

 私の目の前に来ると視線がテーブルの上に注がれています。すでに空になった紅茶のカップとお菓子皿。何かを察したらしいレイ様の顔が、私を見てそれからエルザへと移りました。これはレイ様の指示ではなくエルザの判断だったのでしょう。

 すぐに診察結果を知らせなかったことで、気分を害されたとかはないですよね? エルザを見つめるレイ様は何を考えていらっしゃるのでしょう? 
 
 ここで先生と商談をしていたなどとは話せませんわね。黙っておきましょう。
 不安に駆られながら成り行きを見守っていると、エルザを見ていたレイ様は少し落胆した表情をされたものの、咎める気はなかったようです。何もおっしゃいませんでした。ほっとしました。

「リッキーは、寝てるのか? のんきなものだな。しかも膝枕してもらうなんて、なんと贅沢な……」