浴室のドアを開けると、一人の女性が待っていました。白衣を着ていらっしゃるのでこの方がお医者様なのでしょう。

「サマンサ・トリッシュと言います。王家の専属医をしております。どうぞよろしくお願い致します」

 肩のあたりで切り揃えられた亜麻色の髪がお辞儀と一緒にさらっと流れます。若草色の瞳が理知的で聡明さが際立つきれいな女医さんです。
 ショートの髪は貴族女性には考えられないですが、職業婦人と呼ばれる経済的に自立している方や平民の女性に多い印象です。

 それにしてもなぜ王家の専属医を呼ばれたのでしょう。私が診て頂いても大丈夫なのでしょうか? 王宮には何人か医者がいますが、王族と王宮勤めの貴族や使用人では担当が違うと聞いています。疑問が残りますが、それは置いといて自分の目的のためにさっさと終わらせてしまいましょう。

「ブルーバーグ侯爵家の長女フローラでございます。今日は私のためにご足労頂きまして申し訳ございません」

 礼を取って顔を上げると、サマンサ先生は目を見開いて驚いたような顔で私を見ていました。

「先生?」

「……何でもありません。それでは診察を始めましょうか」

 なんでもないような感じではなかったような……