「フローラ。フローラ、聞いているのか?」

 エドガー様のひときわ大きな声がシンと静まり返ったホールに響き渡ります。

「聞いておりますわ」

 年に一度のダンスパーティーは生徒にとって一大イベントの大事な日。みんなこの日のために、ダンスの練習に励みドレスを仕立てて楽しみにしているのに、こんな私的なことでパーティーを台無しにしてはいけません。

「だったら、返事をしろ」

「申し訳ございません」

 私は前に進むと二人の正面に来ました。

 まぶしいですわ。
 ライトがリリア様のドレスを照らしてさらにきらびやかさが増しています。目がチカチカして直視できません。
 仕方なく幾分落ち着いているスーツ姿のエドガー様を見つめました。リリア様は視界に入れないようにしましょう。お隣にくっついていらっしゃるので難しいですけれど。
 二度見三度見なんてできません。あの方たちはとても目が丈夫なのね。私には一度で十分です。

 それにエドガー様も平然と横に並んでいらっしゃるのだもの。ド派手なドレスに耐えられないときらびやかさは手に入らないのね。とてもじゃないけど、私では無理だわ。

 私のドレスもピンクダイヤやブルーダイヤをちりばめてあって、キラキラ輝いていてとてもきれいだと思っていたけれど、リリア様の金箔を張りつけたかのようなギラギラしさと星を模したような水色のガラスの装飾には勝てません。完敗です。
 
「俺はリリアと結婚する。わかったな?」

「はい。婚約破棄の件、承知いたしました。私に異論はございません。お二人はとてもお似合いです。どうぞ、リリア様とお幸せに」

 私は最大の礼をとりながら返事をしました。

「ああ、ありがとう」

 エドガー様は満面の笑みで微笑みました。初めて私に向けたエドガー様の笑顔。笑えたのですね。私の前では眉間のしわを寄せ仏頂面しか見たことはありませんでした。