「もしかして、カフェを出すことをどこかで聞いたのかしら?」

 物件を探していることは一部では知られているようだけれど、まだ噂の範囲内。わたくしも公にしているわけではないのよね。だから、カフェのことが伝わっているとは思いにくい。可能性として口に出したけれど。

「それはないとは思うが、これは……たまたま偶然なのかもしれないし……」

 ローレンツも不思議がっているよう。

 ここに来て因縁のある我が家に取引をお願いするなんて、不審に思うのも無理はないというもの。

 ただ、調べても何も出てこなかったのよね。

 旧邸はこちらが買い取ったあとは、すぐに新邸を建てているみたいだし、事業は良好で借金等はなし。堅実な経営をしているようで業績は順調そのものだったわ。

 初めての取引で慎重にならざるを得ないから調査をしたのだけれども、報告からは懸念する材料は見当たらなかった。

 あっ、でもあるとすれば一つだけ。リリア嬢のこと。
 市井で育った長男夫婦の娘だと聞いたわ。
 無知は恐ろしい。彼女がこれ以上、足を引っ張らないとよいけれど。

「それにしても、たまたま、偶然……」

 そんなことがあり得るのかしら? 
 タイミングが良すぎるわ。
 でも、人生何が起こるかわからないものね。

 あちらにも何か思惑があったとしても、これもチャンスと捉えればいいわ。


 オープンまであと三カ月。

 グズグズしている暇はないわね。もうひと頑張りしましょう。