婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

 案内されたのは、何もない真っ白な壁に囲まれた部屋でした。
 家具もなく調度品もない使われた形跡すらない無垢な空間。

 広い室内にいるのは私とエルザだけです。

 人前で足をさらすという前回の失態をふまえて、今日は靴を履き替えるために別の場所へと移動したのですが、通された部屋がここでした。

 今は椅子に座っていますが、普段はそれさえもないのでしょうね。私のために準備してくれたのでしょう。

「エルザ。この部屋に入ってもよかったのでしょうか?」

 室内履きを履かせてもらいながら聞いてみました。静謐に包まれた室内には、人の気配さえも拒絶しているような雰囲気があります。

「まだ誰も使ったことがない部屋ですから、お気になさらなくて大丈夫ですよ」

「誰も? ですか?」

「はい。この宮はレイニー殿下の居住地ですし、現在はお一人でお住まいですからね。使っていない部屋もたくさんあるのですよ。ここはそのうちの一部屋なので気になさることはありません。それにレイニー殿下の指示ですしね」

 エルザは脱がせた靴をトレイに置くと軽く微笑みました。

「お一人で……」

 エルザの何気ない言葉がちょっと引っかかりました。