「それはそれとして、今学期が終わったら僕は学院に戻るよ」

「はっ?!」

 サッと気持ちを切り替えたのかスティールはサバサバとした口調で言い放った。
 次々と息子からもたらされる言葉に気持ちがついて行かない。

「一度退学してしまえば戻れないけれど、実は休学扱いにしてもらってるんだ。退学はいつでもできるからって、学院長の勧めでね。ここの学園も悪くはないけど、やっぱりあっちが僕には合ってる気がするんだ」

「だったら、何のために帰国したの」

「それは父上と母上の言葉に従ったからだよ。一度現状も見てみたかったしね」

 大人しくて生真面目で努力家。それがわたくしのスティール評だった。線が細くて少し頼りないところがあったのに、いつの間にたくましく育ったのかしら。留学していろいろな生徒にもまれたせい? それとも、生来から持っていたもの?

「僕はまだ学生だからね。すぐに切り替えろと言われても簡単には出来ないんだ。だから、もう少し猶予が欲しい。お願いします。母上」

 スティールは立ち上がると深々とお辞儀をした。

 何度も拒絶するところを見ると気持ちはあまりないのかもしれないけれど、息子は息子なりに譲歩したのだろう。

 猶予。

 スティールの気持ちを考えずに、一方的に大人の考えを押し付けたのはわたくしたちだ。
 これ以上、息子の気持ちを失うわけにはいかない。

「わかったわ。当主の件はもう少し待ちましょう」
 
 わたくしの返答に安心したのか、ホッとした顔をしてスティールは部屋を出て行った。

 これから、主人とも話し合わなければならない。
 一筋縄ではいかない事態にさらに頭を悩ますことになった。