「いや、今は空いてるよ。以前は曾祖母の住まいだったらしいけどね」

 曾祖母といえば、マクレーン伯爵家に降嫁なさっていましたね。

 それにしてもこの王宮だけ随分と趣が違うわ。

 東の宮も西の宮も外観は四角い箱の形でシンプルなのですよね。南の宮はレンガ造りで壁には蔦が這っていて古めかしい佇まいなので、作られた年代が違うのかもしれないわね。

「もしかして王女殿下の王宮なのですか?」

「そう。うちは男系で女の子があまり生まれないんだ。で、念願の王女が誕生した時に、当時の国王が特別に作らせたらしい。俺は中には入ったことはないけれど、その時々の王女の好みで内装を変えているらしいよ」

「そうなのですね。とても愛されていたのですね」

「そうみたいだね。父上も俺たちも男の兄弟ばかりだしね。女の子は生まれても一人といった具合に少ないから、宝物扱いで曾祖母も相当溺愛されて育ったって聞いているんだ」

 苦笑交じりで話すレイ様の様子を見ていると、いろんなエピソードがありそうな感じがするわ。

「では、この宮は王女殿下が生まれないと使われないということですか?」

「たぶん、そうじゃないかな。もしも王女が生まれたら上を下への大騒ぎになると思うよ。みんなで目に入れても痛くないほど猫可愛がりするのが想像できる」