婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

 思わず声をあげてしまったわ。
 
 静まりかえった夜の闇に私の声が響きました。私はあっと口を抑えました。
 今夜は西の宮の使用人たちも蛍を鑑賞に来ているのだと教えてもらっていたのに、皆さんに申し訳ないことをしました。
 
「蛍は気にしていないみたいだよ」

 目の前の光景は相変わらず蛍が飛び交っていました。私の声は妨げにはならなかったみたいでホッとしました。

「さっきの続きね。環境さえ整えてあげれば蛍は育つから、ローラもできると思うよ」

「そうなんですね」

 生き物ですから実際は容易ではないかもしれませんけど、できそうだと聞くと俄然興味が湧いてきます。

「池が出来上がったら、卵か幼虫か持ってきてあげる」

「はい。お願いします」

「約束だからね」

 はっ?!

 これは……

 勢いで返事をしてしまったけど、まんまと罠にかかってしまった?
 もう一度、前言撤回ってできるかしら?

「くくくっ」

 しまったと後悔していると隣から震えるようなくぐもった声が聞こえました。
 レイ様が笑いをこらえて、笑ってるわ。
 気配でわかるもの。この場でなければ大笑いしているに違いないわ。

「レイ様、何がそんなにおかしいんですか?」

 やけになって聞いてみました。

「……」

 答えることもできないくらいにおかしいのね。